伝統文化の部屋

浜畑賢吉先生 追悼

浜畑賢吉はまはたけんきち
 俳優座養成所15期生。卒業後劇団四季入団。石原慎太郎作「若き獅子たちの伝説」
で主役を務め、その後ジロドー、アヌイ、シェイクスピアなどの舞台と並行して「進
め青春」「男は度胸」「紫頭巾」などのテレビドラマに出演。ミュージカルでは
「コーラスライン」「キャッツ」の初演。オペラ「魔笛」やミュージカル「アプロー
ズ」などの演出。2004年から大阪芸大教授・舞台芸術学科長として大勢の舞台人を送
り出している。著書「舞台に生きる」は図書館協会の推薦図書。

         

 浜畑賢吉先生が本年7月2日に亡くなられました。ミュージカルを中心とする舞台俳優として活動されるかたわら、テレビでの御出演など幅広い分野においても活躍され、多くの文化芸術上の足跡を残されました。

 私共、関西楽劇フェスティバル協議会の活動の中においては、2006年度にNHK大阪ホールで上演しました『豊後掾Bungonojo』に御出演いただきました。同作品は当協議会のオリジナル作品ですが、時代設定は江戸時代半ば、八代将軍吉宗のいわゆる享保改革のただ中、そこへ京くだりの浄瑠璃太夫の宮古路豊後掾が、「豊後節」と呼ばれた艶やかで官能的な音調をもって、しかも禁じられている心中物を語ったわけですから、江戸の街は大混乱に包まれます。

 民衆の豊後節に対する熱狂的支持を目の当たりにして、吉宗ら幕閣の人々も、従来の禁圧一辺倒の政治を改めます。こうして自由を得た豊後節ですが、民衆的熱狂は留まるところを知らず、現実社会にも心中、駆け落ち、不倫、密会沙汰が横行し、豊後節はふたたびその責任を問われることとなります。

 宮古路豊後掾は江戸追放の身となりますが、豊後掾には江戸でなじみとなった遊女若菜がおり、彼女は別れを肯んじえません。豊後掾は若菜のために別れの宴を催し、彼女のために一世一代の浄瑠璃を語る。そして語るがうちに現実と虚構の世界を隔てていた膜は消え失せ、豊後掾と若菜とは浄瑠璃世界の人物となり、自由の世界へと旅立っていく・・

 この作品において、浜畑先生には主役の豊後掾と、豊後節の流行に理解は示しつつも公益の観点から取り締まりのかたき役となる将軍吉宗の二役を演じていただきました。衣装の早変わりも、この上演の楽しみどころでもありました。

 もう一つは近年、上演を重ねています楽劇『ガラシャ』です。これも当協議会のオリジナル作品です。明智光秀の娘にして、のちキリスト教に改宗し、洗礼名をガラシャと称した女性の生涯を描いたものです。この作品では、彼女のキリスト教入信の動機に焦点を合わせています。それは父光秀の引き起こした本能寺の変であり、その後の残酷な処刑のあり様に他なりませんでした。

浜畑先生には、その重要な契機をなす本能寺の場における明智光秀役をお願いしました。これはたいへんな難役で、台本で60行にわたる光秀のモノローグ、ひとり語りをこなさなければなりません。光秀の思い、光秀を謀叛に走らせた信長の所業の意味、それらは後のガラシャ改宗にとって重要な契機をなすのですが、この重要な場を、その長大なセリフと光秀の千々に乱れる内面の葛藤を表しつつ、弛緩することなく、高い緊張感と格調とをもって約20分にわたる第一幕第三場「本能寺」を、圧倒的な存在感と迫力とをもって演じ切られましたが、浜畑先生の円熟の境地を見事に発揮されたものでありました。

 浜畑先生には、これら御出演とともに、打ち合わせの機会にミュージカル、オペラ、演劇など舞台演出について多くのことを学ばせていただきました。それらは、私どもにとっての大きな財産となっています。

浜畑先生の数々の御貢献に感謝致しますとともに、先生の御冥福を心からお祈り申し上げております。

                                       敬具

2024年7月 関西楽劇フェスティバル協議会

代表幹事  笠谷和比古

楽劇『ガラシャ』東京公演

『楽劇の祭典』を御参照ください。


伏見ルネッサンス時代祭 武者行列と太閤能『明智討ち』



伝統文化プロジェクト

[伝統文化プロジェクトの趣旨]

多彩な日本の伝統文化

 無尽蔵に存在する、世界に通用するは日本の伝統文化

 茶道、華道から始まり、絵画、彫刻、工芸、織物、染色の世界。和歌、連歌、俳句など

 古典文学一般。和食、和室、風習、園芸(日本庭園、盆栽)、年中行事といった生活文化。

 能・狂言、歌舞伎、文楽という舞台芸術。

 禅仏教、神道、武士道などの精神文化

        *伝統文化を「守る」という姿勢ではなく、進化・発展の途を探究

        その結果として保存されるというあり方

        *伝統的文化・芸術を現代の資源として積極的に活用

        *日本の伝統文化・芸術に基づくglobal standardを日本から世界に発信

[伝統文化と現代-二つの分断]

  1. 伝統世界と現代社会との分断

  *分断境界としての「文明開化」

   明治時代の「文明開化」という政策によって、日本の文化・芸術は過去と現代に分断

   日本の伝来のものは「文明以前」として、「現代」の文化・芸術は西洋からの輸入

   日本の伝統的な文化・芸術は美しいけれども、博物館に陳列するものという観念

   現代日本の文化・芸術は欧米式であることを疑うことのない一般通念

   ex.日本の音楽教育は小学校から高校まで全て西洋音楽。伝統音楽の教育機会を排除

   *このいわれなき分断の克服  伝統的な文化・芸術を現代日本のそれとして活用

  1. 経済活動と文化・芸術との分断

  *効率と低コスト追求型経済からの脱却

  *文化・芸術の経済的価値

  *経済一辺倒からの脱却 社会体質の改造

  *文化・芸術を経済システム、国家戦略に組み込んでいく発想

  *優秀な製造技術、ハイテク、IT技法と伝統的文化・芸術資産との合体

  *他の国の追随を許さないような「高度付加価値型の経済システム」の確立が急務

  *日本の伝統文化は付加価値の宝庫 文化・芸術の経済的価値

   ex.“都市ブランド”戦略

  *大阪市の「文楽」問題  負のイメージ 大阪にとって不可欠な都市ブランド戦略

  「真田丸」人気と大阪の魅力の再認識  歴史資源、伝統文化資源の活用戦略

  *「京の湯豆腐」- 同じ湯豆腐でも京都で食するそれは数倍の値段でも厭わない 

  伝統的文化・芸術の価値による都市ブランド戦略の成功例 モデル・ケース

[伝統文化プロジェクトの四部門]

  1. 街づくり
    ex.大阪船場地区の再生計画
    京都西山の自然と文化を活用した活動
    岐阜県関ケ原町と合戦遺跡の活用
    富士宮市と富士山岳信仰

      京都大学工学部、京都芸大、日文研伝統文化プロジェクトの三者共同プロジェクト

      「ネオ西山文化フォーラム」

      素材としての「竹」                         

      ex.「竹製電気自動車」 稼動させる環境整備  京都発のエコロジー 

      2008年、G8洞爺湖サミット  地球温暖化問題

      精神文化 道徳と人間性    

      「武士道の現代的意義」     

      *食品偽装問題  不正の組織的隠蔽   

      *いじめと虐待 同調志向 独創性と卓越性の消失

      *震災・大災害時の慎み深い行動、 略奪・暴動がなく助け合い、分かち合う

      *福島原発事故における吉田所長らの行動 「福島50勇士」(中国)

      *「日常生活の中に現れる武士道」

        舞台芸術  

        *日本の伝統演劇は多くの場合、音曲と舞踊と混然一体となった総合芸術としてある

        日本の三大古典的演劇  能・文楽(人形浄瑠璃)・歌舞伎三者三様の個性的・独創的スタイル 

        世界無形文化遺産 日本は世界に冠たる舞台芸術王国

          a.劇づくり

           *能・文楽・歌舞伎の三大古典劇 

           *三者ともに独創的スタイル

           演劇の様式  ドラマ・ツルギ―  詞章


          b. 音楽

           *日本の伝統演劇は多くの場合、音曲を伴う「楽劇」

           伝統邦楽と西洋音楽(古楽器、管弦楽)  との 比較・統合

          ex.能楽(囃子、謡曲)、琵琶、浄瑠璃(常磐津・義太夫)

        *劇づくりの分野では、2001年から、能・文楽・歌舞伎を基軸とし、

        これら三大楽劇の現代的展開を追究するフェスティバル「楽劇の祭典」をたちあげて、

        今日に至っている。この活動の詳細および以上に掲載した作品の説明については下記を参照されたい。

        「楽劇の祭典」http://www.gakugeki.org/index.html 

        マンフレート・フーブリヒトと笠谷和比古
        演出家マンフレート・フーブリヒト氏と
        兵庫県立芸術文化センターの大ホール
        兵庫県立芸術文化センター・大ホール